突発的に思いついたお話です。
始まりの部分だけさらっとですが強姦とかされちゃってますので
苦手な方はお気をつけて!
創作背景としては、広いアルベリア大陸のどこかです。ガーネットが生きてる時代くらいの話だけど、ガーネットとの接点は特になしです。
続きから読み物です。
[0回]
とある男と女の話
見知らぬ男でした。背が高く、黒ずんだぼろぼろの隊服を身に纏った、知らない男でした。
男は私に掴みかかると突然私の服を脱がせました。私は恐怖のあまりに声も出ませんでした。腰を進めてくる男に、私はわけがわからず涙が出ました。
どうしてこんなことに、理不尽だ、酷い、死んでしまいたい。私は自分の人生をこの時ほど恨んだことはありません。
男は私に構わず腰を打ち続けました。早くなる動きに男が何かを呟いていました。「すまない」と言う声が、私の耳に届きました。何度も何度も「すまない」と男は謝りました。私はただ「何故だ」と、理不尽な仕打ちに困惑しました。
やがて動きが止まると男は私のナカに欲を吐き出しました。
気持ち悪い。見知らぬ他人のーー流れてくる感触。私は耐え切れず、その場で意識を手放しました。
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私は路地裏を歩いていました。夕方から宵にかかる仄暗い路地。治安のだんだん悪くなる街。早く出ようと、私はローブの前をしっかりと握って駆け出しました。
そしてその曲がり角で、私は男と会いました。
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目が覚めると知らない天井が目に入りました。ここが何処なのかわからないことへの不安感と焦燥感が私を襲いました。
そこへ「目が覚めましたか」と右側から声が聞こえました。私はその声を知っていました。覚えていました。声のする方へと顔を向けると、そこには隊服の上着を脱いだあの男が腰をかけていました。のぞき込むようにして私を見ていました。
私は恐ろしくなり布団を胸へと掻き集め、後ずさりをして右手で枕を握りました。ドンッと背中に伝わる感触。ベッドのすぐ隣には壁がありました。
ここは何処かと私は男に尋ねました。恐怖に声が震えてしました。
男は「近くの宿屋です」と答えました。近づいてこようとする男に私は右手に握っていた枕を投げました。
「近寄らないで」
柔らかな枕は男の顔に当たって、大した音もなく床へと落ちました。男は差し伸ばそうとしていた手を引っ込め、少し悲しそうな顔をしたあと、「すまない」と一言謝り、「水を取ってきます」と言って立ち上がりました。
床の軋む音に続いて扉の開く音。それなりの音を立てて閉まった扉に、私はゆっくりと息を吐きました。
若いテノールの声。見た目から見て、あの男はきっと私と同じくらいの年なのでしょう。
目を覚ましてから見たのあの男は、私を襲った時とはまるで別人のように思えました。私を捉えた時に見せたあの眼。あの獲物を狩るような鋭い眼差しが今は何処にもなく、ただ犯した罪に揺れる、力のない憂いた眼をしていました。
この部屋には窓が二つ。どれも建て付けが悪そうな窓です。私の向かいには扉。その右隣には机と椅子。反対には物入れ棚と、壁には私のローブ。窓の位置から見る限り、この部屋は宿屋の端の部屋に当たるのでしょう。
脱出を試みようと思いましたが、私はどうしてもあの男が気になり、ベッドの上から動くことが出来ませんでした。
再び扉が開き、男が戻ってきました。
「水を持ってきました。飲めますか」
男が尋ねてきました。水をじっと見つめたまま黙る私に、男は「何も入ってませんから」と言葉を付け足しました。
水を受け取り口に含む。喉を通る冷たい感触がなんだかとても久しぶりなように思えて、私はひどく安心した気持ちになりました。
男は元の通りに目の前の椅子に座り、「少し落ち着きましたか」と聞いてきました。
その言葉に私は、あなたがそれを聞くのか、と怒りが湧きました。
睨む私に男は目を伏せ、再度「すまない」と言いました。
「どうして」
私は震える口でそう聞きました。
「…衝動的に体が動いたんです。苦しくて…。許してもらおうはと思っていません。俺は貴女に酷いことをしました。だからせめて、貴女を看病しようと…」
男は苦虫をかみつぶしたような顔で言いました。まるで自分を責めるように。どんな罰でも受けるというように。
部屋は暗く、サイドテーブルにランプが一つあるだけです。そのランプ一つで部屋の状態がわかるくらい狭い部屋に、私たちはいました。
私は水があと少し入ったコップを両手で持ったまま、また口を開きました。
「貴方、オースィニの人でしょう?」
男はそれに黙って頷きました。
私を襲ったときに来ていた隊服。それは私の家を襲った人たちと同じ隊服。我が国の敵国。戦争の相手。私の家族を虐殺した人たち。男は私にとって国柄からの敵。私を襲った敵でした。
ゆらりと揺れるランプの灯りが一瞬部屋の影の形を変えました。
憎い相手が私の目の前にいます。私の家を理不尽にも襲い、家族を殺し、奪い、私を辱めた酷い人たち―――。その中の一人が今、目の前にいました。
ああ、なんて憎いのでしょう。その憎い存在は、こうべを垂れています。まるでその首を差し出すかのようにこうべを垂れています。私は、殺せ殺せ、と耳元で囁かれたような気がしました。
歪む視界にじわりと滲む嫌な汗が私の焦燥感を煽り、呼吸球の間隔を短くさせていき、そして――――――その憎い存在は徐ろに顔を上げました。口を開き、あのテノールでもう一度「すまなかった」とはっきり零したのです。
気が付けば私は涙を流し、男は私の涙で濡れた頬をそっと撫でていました。
いつから泣いていたのか、いつ手を伸ばしたのか、私にはわかりませんでした。触れられて驚き、そこで初めて己が泣いていることに気付いたのです。
一度恐れたその手は、不思議なくらいに暖かく、優しく、心地の良いものでした。
大きな男の人の手。どこか懐かしい思い出が蘇るようで、私は更に頬を濡らしました。今の私に救いをくれる、そんな気がしたのかもしれません。
この男にあんな酷いことをされた矢先、家族を奪った人たちと同じ隊服の人の手前。そんな相手を目の前に泣いている私。
馬鹿なことだとわかっていました。逃げようと思えば逃げれる環境でした。男が水を取りに部屋を出た時、私は窓から外へと出られた筈でした。しかしそれとは裏腹に、このまま殺されてもいいのではないかと思ったのです。愛する家族の元へ逝けるならむしろ殺されてもいいと、そう思って私は動けなくなったのです。
私の涙はとどまることを知らぬように流れ続け、男は流れた涙を拭って自らの手を濡らしてゆきました。慰めるように私を優しく撫でる敵国の男。私は顔を上げて泣き腫らした目を男に向け、そしてついに、その男の名を聞きました。
「貴方の名前をを聞きたい」と。
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